陶芸家の仕事とは?
年収・なり方から「土と炎」の厳しい修行
やりがいまで徹底解説!
手のひらの上で、無機質な「土」が
命を宿した「うつわ」に変わっていく。
そして、灼熱の「炎」を経て
世界に2つとない色と輝きを放つ。
「陶芸家」とは、この最も原始的で
最も奥深い「土と炎の芸術」に生涯を捧げる職人であり、芸術家です。
「趣味で始めたら、奥深さにはまってしまった」
「いつか自分の窯(かま)を持ちたい」
この記事は、[芸能・芸術の職業大全]の一部として
そんな「陶芸家」という仕事のリアルを
その収入源から厳しい修行
そして何物にも代えがたいやりがいまで、徹底的に解剖します。
陶芸家になるには?
必要な資格は?
A. 法律で定められた必須の国家資格や免許は
一切ありません。
究極的には、あなたの作品が「アート」
または「工芸品」として認められ
それを購入する人がいれば、あなたはプロの陶芸家です。
【しかし、プロになるための王道の道は存在する】
1. 美術大学・専門学校で学ぶ
最も一般的なルートです。
美大や専門学校の工芸科・陶芸コースで
デッサンや造形理論、土や釉薬(ゆうやく:うわぐすり)の化学的知識
窯の扱い方といった、基礎から専門技術までを体系的に学びます。
2. 窯元(かまもと)や作家に弟子入りする
卒業後、あるいは全くの未経験から
全国各地の有名な産地(有田、信楽、備前など)の窯元や
尊敬する陶芸家に弟子入りします。
3. 独立する
数年間の厳しい下積み(修行)を経て、独立。
自分のアトリエ(工房)と窯を持ち、作家活動をスタートさせます。
具体的な仕事内容は?
「ろくろを回す」だけではない!
陶芸家の仕事は
私たちがイメージする「ろくろを回す」作業(成形)以外に
非常に地道で、科学的で
そして体力勝負の工程が数多く存在します。
• 1. 土練り(つちねり)
作品の良し悪しを決める、最も重要な準備工程。
粘土の塊から空気を抜き、均一な硬さにするため
体重をかけて練り上げます。非常に過酷な肉体労働です。
• 2. 成形(せいけい)
土を形にする工程。
• ろくろ成形
高速で回転する台の上で、水と手を使い
器を立ち上げていきます。
• 手びねり
ろくろを使わず、手で粘土を積み上げたり
ひねったりして形作ります。
• 型(かた)おこし
石膏型などを使い、同じ形のものを量産します。
• 3. 削り・乾燥・素焼き(すやき)
半乾きの状態で底の部分(高台)などを削って仕上げ
完全に乾燥させた後、一度目の焼成(素焼き)を行います。
• 4. 釉薬がけ(施釉:せゆう)
素焼きした器に、「釉薬(うわぐすり)」をかけます。
この釉薬の成分(灰や金属など)と、炎の化学反応によって
陶器の独特の色や質感が生まれます。
• 5. 窯詰め・本焼き
釉薬をかけた作品を、窯の中に隙間なく詰めていきます。
そして、丸一日、時には数日間にわたり
1200℃を超える高温で焼き上げます(本焼き)。
• 6. 窯出し・販売
窯が冷めるのを待ち、作品を取り出します。
その後、ギャラリー(画廊)での個展
セレクトショップへの営業、クラフトフェアへの出展
ネット販売などを通じて、作品を販売します。
気になる給料・年収事情
この問いに答えるのは
画家や俳優の年収を語るのと同じくらい困難です。
なぜなら収入は「ゼロから数千万円」まで
天と地ほどの差があるからです。
「陶芸家として
作品販売だけで生活できている人は、ほんの一握り」
これが、まず知るべき厳しい現実です。
収入源の例
• 作品の販売収益
• 【最重要】陶芸教室の運営
多くの陶芸家が、生計を立てるための主な収入源として、一般向けの「陶芸教室」を主宰しています。
• 講師・兼業
美術大学や専門学校の非常勤講師。
• アルバイト
若手時代は特に、制作活動と並行して、アルバイトで生活費を稼ぐことが一般的です。
【収入の目安】
• 修行中(弟子入り)
年収 ほぼゼロ ~ 100万円
「住み込み」で、衣食住の面倒を見てもらう代わりに
給料はほぼゼロ(お小遣い程度)という、厳しい世界が今も残っています。
• 独立・若手作家
年収200万円~400万円
作品の販売と、陶芸教室の収入で、ようやく生計を立てる時期。
• 中堅・人気作家
年収500万円~1,000万円以上
個展を開けば作品が完売する
メディアに取り上げられるといったレベルになれば、収入は安定します。
仕事のやりがいと大変なこと・厳しさ
やりがい:究極の「物質」との対話
• ゼロから「形」を生み出す喜び
ただの土の塊が、自分の手と思考によって
触れることのできる「作品」になる。
これこそが、ものづくりの最大の醍醐味です。
• 「窯出し」の瞬間の興奮
本焼きを終え、窯を開ける瞬間は
陶芸家にとって最も興奮する時です。
炎という自然の力によって
自分の想像を超える「景色」(焼き色や釉薬の変化)が生まれた時の感動は
何物にも代えがたいものです。
• 自分の作品が、誰かの日常になる
自分の作った「うつわ」が、誰かの食卓に並び
その人の日常を少しだけ豊かにする。
その実感は、大きな誇りとなります。
大変なこと・厳しいこと・危険なこと
• 1. 過酷な「肉体労働」
これが最大の厳しさです。
何十キロもある土袋の運搬、力仕事である土練り
窯のそばでの灼熱作業など、体力勝負の仕事です。
腰痛は職業病とも言えます。
• 2. 経済的な不安定さ
作品が売れなければ、収入はゼロ。
さらに土代、釉薬代、そして何より
窯の燃料費(ガス・灯油・電気代)は非常に高額で
常に経費のプレッシャーが伴います。
• 3. 常に伴う「危険」
• 火傷(やけど)
1000℃を超える窯のそばでの作業は
常に火傷のリスクと隣り合わせです。
• 怪我
ろくろや機械への巻き込まれ
重い作品の落下など。
• 粉塵(ふんじん)
土や釉薬の粉塵を吸い込むことによる
塵肺(じんぱい)のリスクもあります。
• 4. 孤独な作業
制作は、基本的にアトリエに1人きりです。
自分と向き合い続ける精神的なタフさが求められます。
あなたはどっち?
陶芸家に向いている人・向いていない人
【向いている人の特徴】
• 何よりもまず、「土」という素材が好きな人
• 地道な作業を、コツコツと続けられる忍耐力がある人
• 体力に自信があり、体を動かすことが苦にならない人
• 「火」や「化学反応」といった、予測不可能な要素を楽しめる人
• 孤独を愛し、長期間一つのことに没頭できる人
【向いていない人の特徴】
• 安定した収入や、決まった休日を望む人
• 体力に自信がない人、潔癖症の人(手が汚れるのが嫌いな人)
• 地道な反復作業が嫌いな人
• すぐに結果(成功)を求めてしまう人
• 自分のこだわりがなく、流れ作業しかしたくない人
土と炎の芸術に生涯を捧げる職人
陶芸家は、単なる「アーティスト」ではありません。
それは、自らの哲学を表現する「芸術家」であり
土と炎を科学する「化学者」であり
そして重い土を練り上げる「肉体労働者」でもあります。
その道は、経済的にも、肉体的にも、非常に険しい道のりです。
しかし、「自分の手でこの世界に触れられる『何か』を遺したい」という
燃えるような情熱を抑えきれない人にとって
それこそが、人生を懸けるに値する唯一無二の生き方なのです。
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