音響スタッフの仕事とは?
年収・なり方から「キツい・危険」
と言われる激務の現実と
最高のやりがいまで徹底解説!
アーティストが歌う、魂のこもった生声。
ドラマの緊迫感を高める、足音とBGMの完璧なバランス。
私たちを熱狂させ、感動させる「音」のすべては
彼ら「音響スタッフ(PA・MAエンジニア)」
の指先から生み出されています。
「音楽や機材が好き」
「自分の技術で、最高の瞬間を演出したい」
そんな想いを抱く人にとって
非常に魅力的で、専門性の高い「職人」の世界です。
しかし、そのクールな機材の裏には
「芸能界で最も体力を要する仕事」とも言われる
過酷な現実と、常に「危険」と隣り合わせの緊張感が存在します。
この記事は、[芸能・芸術の職業大全]の一部として
そんな「音響スタッフ」という
エンタメの心臓部を担う仕事のリアルを徹底的に解剖します。
音響スタッフになるには?
必要な資格は?
A. 法律で定められた必須の国家資格はありません。
しかし、プロとして働くためには
専門知識と、事実上「必須」となる資格があります。
「資格」以上に、あなたの「耳」と「技術」がすべてです。
【プロになるための主なルート】
1. 音響系の専門学校・大学で学ぶ(王道ルート)
音響工学、機材の操作、電気理論、音楽理論などを体系的に学びます。ここで得た知識と人脈が、キャリアの基盤となります。
2. 音響会社(PA会社)・制作会社に就職する
学校を卒業後、コンサート専門のPA会社や、テレビ局の技術プロダクション、録音スタジオなどに就職します。
3. アシスタントからのスタート
これが、この仕事の「修行」です。
最初は機材に触らせてもらえることすら稀。重いスピーカーや機材ケースの運搬、何キロにもなるケーブルの設営(「ケーブルさばき」)といった、過酷な肉体労働からスタート。師匠(チーフエンジニア)の技術を、現場で「盗んで」覚えていきます。
【持っていると有利な資格】
• 舞台機構調整技能士(国家資格)
舞台音響の技術を証明する、最も権威ある資格のひとつ。
• 陸上無線技術士(国家資格)
ワイヤレスマイクなど、電波(無線)機材を扱う現場で必須となります。
• Pro Tools技術認定(民間資格)
音楽・映像業界の標準ソフトを操る技術証明。
具体的な仕事内容は?
「PA」と「MA」
音響スタッフの仕事は、活躍する現場によって
大きく役割が異なります。
1. ライブ・コンサート(PAエンジニア)
「Public Address(公衆伝達)」の略。
生演奏の「音」を、その場で加工し、観客に届ける仕事です。
• 仕込み(搬入・設営)
これが最も過酷な肉体労働です。
何トンにもなるスピーカー、ミキサー、アンプ
といった機材を会場に運び込み、設計図通りに設置します。
• サウンドチェック
楽器ひとつひとつの音を調整し
会場の音響特性(反響など)に合わせて
全体のバランスを整えます。
• オペレート(本番)
• FOH(フロント・オブ・ハウス)
客席側で、観客が聴く「メインの音」をリアルタイムでミックスします。
• モニター
ステージ袖で、アーティストが聴く「自分たちの音」を調整します。
• バラし(撤収)
公演終了後、日の出までかかっても、すべての機材を撤収します。
2. テレビ・映画・スタジオ
• 録音(ロケ・スタジオ)
ドラマや映画の現場で、「ガンマイク」などを使い
俳優の「台詞」をクリアに録音します。
• MA(マルチ・オーディオ)
編集室(MA室)で、録音した台詞
効果音(SE)、BGM(音楽)を
映像に合わせてミキシングし、作品の「音」を完成させる仕事です。
気になる給料・年収事情
収入は、所属する「会社」や
キャリア(アシスタントか、チーフか)によって大きく異なります。
「激務の割に、給料が高いとは言えない」
これが、この業界の現実です。
【収入の目安】
• アシスタント時代
年収 250万円~350万円
「修行期間」です。給料は低く、労働時間は非常に長い。
ここで9割が辞めていくと言われるほど、最も厳しい時期です。
• 中堅(チーフエンジニア)
年収 400万円~700万円
PA会社や制作会社の正社員として、
1人で現場を任されるようになると
一般的な会社員と同等か、それ以上の収入が見込めます。
• フリーランス(トップクラス)
年収 1,000万円以上
有名アーティストから「あなたでなければ」
と指名されるトップエンジニアや
売れっ子のMAミキサーになれば、高収入も夢ではありません。
仕事のやりがいと大変なこと・厳しさ
やりがい
究極の「音の支配者」
• 自分の「音」で、観客を熱狂させる
これが最大のやりがいです。
自分がミックスした瞬間に、観客が「ワッ!」と沸き
アーティストが最高のパフォーマンスを発揮する。
その「奇跡の瞬間」を、自分が創り出しているという実感。
• 「作品」の一部になれる誇り
何百人ものスタッフ(照明、舞台、映像)と
ひとつのチームとして
最高のショーや作品を創り上げた時の達成感は
何物にも代えがたいものです。
• 「ありがとう」という、アーティストからの信頼
「今日の音、最高でした」という
プロからの感謝の言葉が、最大の報酬です。
大変なこと・厳しいこと・危険なこと
• 1. 圧倒的な「肉体労働」(きつい)
「音響は、土方(どかた)仕事」。
機材は1つ何十kgもするものがザラです。
体力に自信がなければ、スタートラインにすら立てません。
• 2. 終わりなき「不規則な生活」(厳しい)
「早朝搬入・深夜撤収」が当たり前。
ツアーに出れば、数週間家に帰れません。
睡眠時間は常に不足し、体力と精神力が削られます。
• 3. 職業病という「危険」
これが最大の「危険」です。
• 難聴(聴覚障害)
常に大音量に晒されるため、
耳が徐々に聞こえにくくなるリスクがあります。
これは、音響スタッフにとって「キャリアの終わり」を意味します。
• 怪我(けが)
重い機材の運搬による腰痛(ぎっくり腰)や
機材の落下による骨折、高所(トラス)からの転落
感電など、物理的な危険も常に伴います。
• 4. 失敗が許されない「プレッシャー」
「ライブは、やり直しがきかない」
本番中にマイクが鳴らない
スピーカーからノイズが出る(ハウリング)
といった「音響事故」は
ショー全体を台無しにします。
その責任は、すべて音響スタッフが負います。
あなたはどっち?
音響スタッフに向いている人・向いていない人
【向いている人の特徴】
• 何よりもまず、「体力」に絶対の自信がある人
• 「音楽」や「機材」が、異常なまでに好きな人
• 「華やかな世界」への憧れより
「裏方」として人を支えることに喜びを感じる人
• 精神的に極めてタフで、睡眠不足や理不尽に耐えられる人
• 「なぜこの音が鳴らない?」を突き詰める
論理的・技術的な思考ができる人
• チームで働く「協調性」がある人
【向いていない人の特徴】
• 安定した収入や、カレンダー通りの休日を望む人
• 体力に自信がない人、潔癖症の人
• 地道な作業(ケーブル巻きなど)や、力仕事が嫌いな人
• 「自分が目立ちたい」人
• プレッシャーに弱く、機械トラブルにパニックになる人
エンタメの心臓部を担う仕事
音響スタッフは、単なる「機材オペレーター」ではありません。
それは、芸術家としての「感性」と
技術者としての「知識」そして何より
現場を支えきる「屈強な肉体」を兼ね備えた誇り高き「職人」です。
その道は、99%の地道な仕込みと
1%の輝かしい本番でできています。
しかし、その1%の瞬間すなわち
「自分の創り出した音で、数万人がひとつになった」という喜びが
他の全てを凌駕するほどの魅力を持っているからこそ
今日も多くの人が、その重い機材を担ぎ続けているのです。
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